--- t r a p p e r







「隣、良いですか?」


掛けられた言葉に後ろを振り返れば、薄暗い食堂に溶け込む銀白の髪と双眸が見えた。
一度思い切り顔を歪めた神田は、もう一度問われた言葉と笑顔に、同席の許可をせざるを得なかった。
最近のコイツは前にも増して嫌な感じがする。


「それで足りるんですか?僕ならおやつにもなりませんよ」

「お前が異常なんだよ」

「これ残すんですか?だったら貰って良いですか?」


馴れ馴れしく人の食事に口を出し、まるで自分が基準とでも言うような口振り。
それに加えて人の話など全く聞いていないかのように一人で話を進める図々しさ。
挙句の果てに許しも得ずに皿に箸を伸ばしてくる、それを自分の箸で止める神田を非道人を見るような目で睨みつけ、
極め付けに神田が掴んでいた天ぷらに齧り付く有様。開いた口も塞がらない。


「ふ〜、ごちそうさまでした」

「…もう食べ終わったのかお前」

「カンダがぼーっとしてたからですよ」

見れば自分の皿にあった残りの天ぷら、汁物の椀、漬物さえもが無くなっている。
どういう神経をしているのか。コイツは最初からこんな奴だっただろうか。
あの貼り付けたような笑顔の下にこんな本性を隠していたとは、やはり自分には見る目があるのだな、と神田は一人納得して。
目の前に飛び出してきた桃色の何かに不意を突かれた。


「んぐっ…!?」

「美味しいでしょ、ね」


お返しです、そうにこやかに添えられた言葉を聞く余裕も無く、
神田は口の中の弾力のある甘さに目を白黒させ、それが何なのかも分からぬままに飲み込んで。
取り敢えず頭痛を催すほどの甘さと態度に頭を抱えた。


「……で、何だ」


深い溜息と共に吐いた諦めの言葉。
途端、今までとは比べ物にならないほどの、不気味なほどの笑顔で神田を一瞥したアレンに、悪寒がしたのは言うまでも無いこと。






翌日の朝、首元の痕をラビに指摘されて照れたように笑ったその笑顔を、
可愛いものだと、感じられることが羨ましいと。そんなことは死んでも言えないこと。

早く誰か気付いてくれ。






アレンの隣、寝不足の頭の隅で神田はまた一つ溜息を吐いた。








* * * 2006/1/30

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