--- a e s t h e t i c 「 」 白い項を隠す黒髪に指を通して、触り心地の良いそれを頬に寄せる。 こんなに色のある肢体を目前にしても、やはりアレンには「男」として見える広い背中に額を付けて、シーツの中でそっと腕を回した。 朝陽が細く射し込む、閑散とした部屋の狭いベッドで、もう何度伝えたか知れない言葉をアレンは再び呟いた。 また貴方は、許してしまった。 いつだったか、初めはただただ、憧れだった。 何物にも屈さない圧倒的な強さと、揺ぎ無い美しさに憧れていたのだ。 けれどいつのまにかその感情は熱を持ち、恋に形を変えていた。 最初に気持ちを伝えた時、貴方は顔を背けなかった。真直ぐに僕を映した真黒な瞳に、僕はまた恋をしました。 それから何度も同じ言葉を繰り返した。貴方を、愛していたから。貴方に愛されたかった。 そして訪れたあの夜、やはり貴方は顔を背けずに、僕を抱いてくれました。 独り善がりなんてしていない、全てわかっています。僕は決して幸せ者なんかじゃない。貴方の優しさにつけこんだ卑しい人間。 でも、それでも良かった、貴方を愛せるのなら。もしかしたらいつか、本当に心を得られるかも知れないからと、思った。 けれど、神田、僕はやはり全てわかってしまった。いつも貴方を見ていたから、貴方が彼に向ける眼差しをも、見てしまった。 そしてまた、貴方に向けられるそれも。 今も僕はこうして、貴方の部屋の貴方のベッドで貴方の背中を抱いている。これがどれだけ残酷なことかわかっていながら。 でもね、神田、貴方はもっと残酷なことをしました。僕を、許してしまった。 最初に気持ちを伝えた時に、この胸を切り裂いてくれたならどれだけ良かったか。 言葉を発したこの喉を、一思いに刺してくれたならどれだけ救われたか。 けれど貴方は偽善を繰り返す。 ああ、いっそ殺してくれたなら、僕も貴方を許せたのにな 「 」 ほらまた、僕は堕ちてゆく。 * * * 2006/5/1 |
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