春一番が吹いて

また同じ、

冷たい季節の繰り返し。






























■ match ■






























暖かい。
















「…、…ビ、ラビ!」



まだ冷える朝、小鳥のさえずりなんかじゃ起きる気になれないけれど
扉の向こうから必死に自分の名を呼ぶ、か細いその人の声が聞こえたらすぐに起き上がる。



「おはよ、ユウ」



何て目覚めの良い朝だろうと、満面の笑みでその人を部屋に迎え入れて、
身体を温めるためのコーヒーを淹れてもらっている間に着替えを済ます。



「…遅い」



ポツリ、呟かれた言葉はきっと、自分が訪ねるまで起きなかった事を責めているのだろう。
二人分のコーヒーを同じ色のマグカップに注ぐ華奢な後姿に、ごめんね、と詫びて
穿き終えたスラックスのベルトを締めてから、ゆったりとベッドに腰掛ける。



「ん、ンマイ。ユウはコーヒー淹れんのうまいさ」



隣に座って差し出されたカップに口を付ければ、ほろ苦い湯気が鼻腔を擽る。
毎回少しずつ変わる味は、冒険中の定まらないもの。今回は成功。



「……、甘」



舌を出して露骨に嫌そうな表情をした横顔に、そうだろうか、と。



「砂糖いくつ入れた?」


「俺のは5つ」



流石にそれでは甘くなるのも当然、俺のは、と言ったあたり
自分が今手にしているものとは違うのだろうか。



「俺の飲む?丁度良いと思うんだけど」



差し出したカップを見て、それから自分をまじまじと見て、そしてまたカップへ、
手を伸ばして受け取ろうとして、けれどまた自分を見つめてくる。
この一連の動作が、可愛くて仕方が無いこと
言ったらもう一生、コーヒーなんて淹れてもらえないかもしれない。



「お前のは苦ぇよ」



数十秒の沈黙の後、そっぽを向いて言われた言葉に笑みが零れる。
ああ、覚えていてくれたんだ、昔言った事。自分は無糖派って。



「でもさ、ほら、合わせればマシになるかもよ?」


「…いい、飲む」



そ、と短く返事をして、そういえばこの人は甘党のくせに、甘えるのは好きなじゃい。
無茶な無理をするくせに、自分にはどれほどでも甘える事を許してくれる人だ。
それは、昔も今も変わらない。もうずっと、ずっと。



「ユウ、次はいつ出るんさ?」


「明日だ、……モヤシと」



トーンの下がった声色に、軽い不機嫌さとそして微かな弾みを覚えて
そっか、と一息付いて啜ったコーヒーは、何故か先程より苦く感じた。
ゴクリ、大きく鳴った喉に自分で驚いて、隣りから再び聞こえた甘さを訴える声



「やっぱ、混ぜる?」


「……」



それでも甘えるのは嫌なのだろう、拗ねたようにコーヒーに映った自分を睨んでいた。



「俺もちょっと、苦いかも」



これがいつもの解決法。
疲れたと言わないその人に、疲れたと言ってやる。
甘えないその人に、甘えてやる。

それで、丁度良い。

無言で差し出されたコーヒーを自分のものと混ぜて、口に入れる。























「ン、」



顎を掴んで引き寄せて、そっと唇から、



「ど?」


「…苦い」



言って睨んで、赤く染まった頬は熱い。
俺にはこれじゃ甘すぎるよ。



明日はこの甘いコーヒーを淹れてもらえないのだと思うと、
今の一時を存分に楽しみたいのだけれど。
隣りから聞こえた空腹を訴える控えめの音に、そっと横顔を覗けば
必死で目を逸らすその人の頬はやっぱり赤くて、愛しい気持ちに駆られるんだ。



「ね、もう一回混ぜたらきっと、丁度良くなるさ」



強請るように囁いて、頬に触れればまた、甘えさせてくれる。
いつの間にか冷めてしまったコーヒーを、口の中で温めて
今度はどうだろうかと唇を合わせれば甘い香りが広がった。



「今度は、ど?」


「ッ…ん、」



離れた筈の甘さがまた舌を擽る。今回は成功。



「ユウ、甘いさ」






























冷たかった、不変の全ても

君となら、きっと。



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正反対の二人だからこそ、お互いに寄り掛かっていられるんだ。

初心に戻ってみましたが、何だこの甘いのは。
そして結局煮詰まりませんでした、半熟ジャム。(何それ
この二人の関係は冷たくて暖かくて、甘くて苦いんだと思うよ。
支離滅裂だね。orz

2005/11/27















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