拭いたかった全てを

消し去ってくれた君と



























■ assimilate ■

























それはいつものように食堂で独り、夕食を食べていた時
正しくは箸と、蕎麦の乗った笊をただ眺めていただけだけれど
そんな神田を覗き込むように、ラビは満面の笑みを作って身を屈めた。



「かーんだっ」


「ッ!?」



突然の声に、それまで俯いていた黒髪の少年の
幼い大きな瞳がより大きく見開かれた。
すぐ目の前に居るラビの気配に気付かなかったことへの焦りを露にして



「夕飯一緒に食べようって、いつも言ってるのに」



拗ねたように表情を一変させて文句を言ってきたラビに、溜息を吐いた。
それは毎回、一方的な口約束で
自分は一度も承諾した覚えなど無いのだけれど。
それにいつも独りでいる神田と違って
ラビには、リナリーや科学班の面々、ブックマンも
食事を共にする相手なんていくらでもいるだろうに。



「俺は、一人でいい」



なぜ断られることをわかっていながら、毎回自分に言い寄ってくるのか。
その理由がわからない、



「神田がよくてもオレは良くないの!神田と食べたいんだもん」



「何でだよ……」



訊いたところでちゃんとした理由なんて聞ける筈も無く、
今回も返って来たのははぐらかすような笑顔だけ。

神田はラビの、この笑顔が嫌いだった。
自分が教団に来た時、既にここにいたラビは
何かと神田に近付いては、まるで友達のように擦り寄ってくる。
どれだけ拒絶の意を示しても、いつもこの笑顔で丸め込まれてしまうのだ。



「もう、夕飯食べちゃった?」



「空いてない、戻るところだ」



目の前に盛られているものが見えていないかのようなその問も
答えになっていないような返答も
もう何度繰り返した遣り取りか知れない。

そうして結局、箸を付けずにトレイを厨房へ返して
自室へと向かうため神田は廊下に出た。



































「……何で付いて来てんだよ」



それまで後ろに付いていたラビが隣りを歩く。
このまま自室まで来る気だろうか
きっとそうだ、いつも、そうだから。



「今日は神田に話したい事があるんさ」



嬉々とした声で、言いたくてたまらないといったような顔を向けてくる。
その瞳は、聞いてくれるでしょ?と訴えていて
神田にはこれ以上ラビといる気も理由も全く無いのに
ラビの有無を言わせない笑顔が、やっぱり神田は嫌いだった。



「俺は聞かない」



「ダメだって、もう言うって決めちゃった」



































そう、一昨日もこんな風に押し切られて



強引に部屋に入ってきたラビは、神田の承諾も得ずにベッドへ転がって
話したい事があると言ったくせに、長い間何も言わず
業を煮やした神田が追い出そうと腕を引っ張った時、



「オレ、明日任務行くんだ」



それはラビの初めての任務で、俯いていて窺えない表情でも
小さく震える腕が、いつもとは違う様子を伝えていて。




































「……、ねぇ神田」



今回もラビが言葉を発したのは、神田が切れる寸前の頃で
ベッドの上、壁に背を凭れて抱いた膝に顔を埋めていたため
くぐもった声が微か神田の耳に届いた。

床で六幻を磨いていた神田は、声のする方に目だけ向けて
また黙り込んだラビの、次の言葉をただ待った。



「オレね、…さっき任務、帰って来たんだ」



「知ってる」



昨日の早朝に出て、今日には帰って来ることができたということは
その任務はあまり大変なものではなかったのだろう。

窺える傷は手首に細く巻かれた、真新しい包帯だけである。
それよりも、前からずっと右目を覆う包帯の方が
よっぽど痛痛しいと神田は思っていた。

初任務がそんなに大変なものであるはずが無いのだ。
自分だって、そうだったのだから。

少なくとも、初任務は













「アクマ1体、倒せたし」



「だろうな」



アクマを倒すのは、エクソシストとして当然のことなのだから
それをいちいち自分に言ってくるなんて、



「そしたらさ、人殺し、って言われちゃった」



掠れた声は、いつの間にかすぐ後ろに来ていて

アクマは人の皮を被って、人間に混ざって潜んでいる。
どれだけアクマに敵対心を持って、倒すことだけを考えていたとしても
人間の姿をしたそれに刀を向けることを一瞬でも躊躇ったら
少しでも余計な感情を抱いてしまったら
その瞬間、自分の命は無くなっていると思え、と

そう教えられた。



「……子供だったんだ、同じくらいの、さ」



多分、いや確実に、ラビも言われたことだ。
それがエクソシストとしての心構えで大前提で、



「言った子の後ろにもう1体、アクマが居て」



続けられた言葉に、耳を傾ける。



「だからオレ、駆け寄って…」



神田の肩を掴むラビの腕と同じように、
掠れた声もやがて震え始めて

きっと、言われたその言葉はとてもショックだっただろう。
それでもラビは、助けなければ、と瞬時に切り替えた。
もう、その先なんて聞かなくてもわかっていたけれど



「その子、オレから逃げようとして、アクマの方に、飛び込ん…で、た」



最後の方は嗚咽混じりで、あまりよく聞こえなかった。

けれど、よくわかっているから
自分の無力さや遣り切れなさを痛感させられる。
まだまだ弱くて、イノセンスとのシンクロ率もなかなか上がらない、
自分だって実戦の経験がそう多いとは言えないのだ。

教えられたことを、そのまま素直に実行に移せるほど
自分たちがしっかりしているなんて、思えない。

認めたくは無いだろうけれど、それが事実だと
唯一の、子供らしさだとコムイは笑って言っていた。






















でも、

それでも自分たちはエクソシストだから
乗り越えなければならないのだとも、コムイは言った。



「お前は人殺しじゃない」



そんなこと、本人が一番わかっていることだけれど
何千回、何万回、自分に言い聞かせるよりも
偉い人間に言い聞かされるよりも
一度だけでも、気持ちを分かってくれる誰かに言われることで
どれだけ救われるか、楽になるか



「誰もお前を、怨んでない」



それがただの気休めにすぎないとしても
自分たちには味方がいて、
この苦しみを分かってくれる誰かがいると
よく知っているから、



「……俺はお前が、嫌いじゃない」



沈んだ心は、もう一度浮かせてやれば良い。
認めたくない言葉は、全て否定すれば良い。

自分も同じだと、そんな安い言葉を言うつもりは無いけれど
楽になる方法を教えることくらいはできるのだから。



「…っ、神田」



絞り出すような声で、ラビは必死に神田の肩に縋り付いて
白くなった爪を慰めるように添えられた手に
その温もりに、心の底から悲鳴をあげた。


































どれくらいの時が経っただろうか、
嗄れた咽は、けれどまだ引き攣っている。
大分落ち着いた心で
ラビは神田を未だ強く抱き締めていて
それでも何も言わず、そこに居てくれる
その温かさが嬉しくて切なくて、また涙が出る。



「泣き虫だな、お前」



突如呟かれた言葉は、きっと神田の本音なのだろう。
さっきまでとまるで違う態度に自然と笑みが零れて



「お前、じゃなくて、ラビ」



掠れた声で、囁いた言葉が耳を擽ったのか
肩を窄めてラビを睨んだ神田は、一つ嘲った。



「泣き止んだら呼んでやるよ」



言われたラビは、一度大きく空気を取り入れて
それから、今まで誰にも見せたことの無いような笑顔を神田に向けた。

もう、ダイジョブだと
























「アリガト、ユウ」



それは、とても温かな言葉。
言われた神田は驚いたように、信じられないというように目を見開いた。

感謝の言葉を言われる理由がわからなくて
むしろ自分の方が、ラビに感謝しているというのに。
独りでいる神田に近寄って、話し掛けてくれたことが
どれだけ嬉しいことか、それをまだ自分は伝えていないのに。

神田が初任務を終えた日、いつものように部屋に来て
肩を抱いてくれて、神田が居なくて寂しかった、そう言ってくれた。
その時の笑顔に、自分がどれだけ救われたかを



「ラビ、」



抱き締め返して、けれど言えなかった言葉。
それでも名前を呼べたことは、進歩だろうかと思考を巡らせて

わかってるんだ、苦しみも喜びも
傍に居てくれる誰かがいる、その温かさも
それじゃいけない、厳しさも

いつかきっと、乗り越えられるから
それまではどうか、君と一緒に。



「ユウだって泣き虫じゃん」



「うるせ」



そう、今はまだ互いの温もりに、身を任せていたいんだ。

































欲しかった全てを

捧げてくれた君と














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く、暗…ッ orz
仔ラビュもどきです。捏造暴走し過ぎました。
こういう痛い子達が好きです。
大人ぶろうとしないで子供らしい一面を見せる一瞬が好きです。
きっとこれがもうちょっと成長するともっと深い仲になr(ry

2005/10/10















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