「寒い」


呟かれた言葉には


幾分かの熱が篭っていた


































■ cloying ■

































数時間前の情事で火照らされた体躯は
しかし春の初めの明け空に冷え切ってしまった。

温もりを求めてシーツを自身に巻き付けるその行為は
生きている動物である証拠、いつも通りの遅い朝。

そんなアレンをゆったりとした動きでシーツごと抱き寄せるクロスの行為も
額にあたる紅く撥ねた髪にむずがる事も、いつもと何ら変わり無い。


ただ一つ、いつもと違う事は







「寒い」

呟かれた言葉と、頬をなぞる指先の熱。



























「師匠が風邪だなんて、明日は雹が降りますよ」


ハチミツを入れたホットミルクとクラッカーをトレイにのせて
一応コンフィチュールも添えて、ついでに嫌味も添えてナイトテーブルに置く。

ベッドヘッドに背を任せ、煙草の代わりに体温計を口に咥えている様は
いつもの彼を知るアレンにはどうにも笑を誘うもの。
拗ねたような顔で俯かれれば尚更だ。


「うるせぇ、お前が毎朝人のシーツ取るからだろ」


「それは、……ッ」


それは裸でいるのだから仕方の無い事だと言おうとして、頬に朱が奔った。
昨夜だって、一昨日もその前も、最後までの記憶が殆ど無いのだ。
けれど朝起きれば身体には特に不快感も無く、下肢に多少の鈍痛が残るだけ。
後始末をしてくれるのは他でもないクロスその人だとわかる。


「何だ、続き言えよ」


向けられた視線と言葉に、含まれた笑に歯軋りしたくなる。
なんて意地の悪い人だろう、と。そして認めたくは無いけれど優しい人。


「良いですよ、もう。さっさと食べちゃって下さい」


テーブルの側にあった丸椅子を引っ張って来て腰掛ける。
これ以上この話題を続けていたらクロスの思うツボである。


「あっめぇ…何だこれ」


マグカップに口を付けた途端に顔を顰める。
酒か水しか飲まないような人に、ハチミツ入りはキツすぎただろうか。


「黙って飲んで下さいよ、疲れが取れるんですから」


早く良くなって貰わなきゃ困るんです、とクラッカーを差し出したら
何かを含んだ笑みがこちらを向いていた。


「な、何ですか」


顎に添えられた手に、身を引きたくても引けない状態。
そのまま近付いてくるクロスの顔は、まるでスローモーションのようで。


「……ッ、ん!」


カラン、とクラッカーの乗った皿が落ちる音をも掻き消すような水音に
離れた唇を見詰めて気付いた、口の中の甘い液体。


「安心しろ、臥せてもお前の相手をシてやるくらいの体力はある」


耳元で囁かれて腰に腕を回されて、状況理解が追い付かないうちに
アレンは跨るような形でクロスの上に乗せられていた。


「……、え、ちょ…ししょ」


ブラウスのボタンが全て外された頃に、やっと出た抗議の声は
また重ねられた唇に呑み込まれた。






















「ん…ッ、ぁ……ふ」


いつも以上に熱くて甘い舌に、意識は溶かされて濁っていく。
上顎を舌先で撫でられれば身体の芯がジンと熱くなる。

そのまま碌な抵抗もできないで肌を冷気に晒されて、
瞬間寒いと感じたけれど、胸の実を摘む指にまた熱は上げられる。


「ああ…んぁ、ゃ…!」


ねっとりと舌で転がされて、思わずクロスの頭を抱える。
自ら行為を強いるようなその体勢に羞恥心を駆り立てられる一方で
漏れる声を抑える事も考えられずに、襲って来る快楽に耐えようとする。


「…いつもより感度イイな」


「ひッ…あ、ん……っ!」


呟かれた吐息が脇腹にかかり、同時に掠められた性感帯にビクリと身体が揺れた。
そのままベルトに手を掛けられて、肩口を掴んでいた手が震える。
カチャカチャと下で聞こえる金属音に、憮然と期待の入り混じった表情をする。


「……んゃ、あ!…だめ、ッん!!」


急に強い力で握り込まれて、一際高い声を上げてしまった。
性急とも言えるこの行為にも素直に反応してしまう自分が憎い。
けれど自身に触れてくる手が、舌が、熱くて熱くてたまらないのだ。

震える先端を捏ね回して、肩に添えられた手に力が入ったり抜けたりするのを楽しむ。
大きく撓ったアレンの背中を、もう一方の手で優しく撫でて、しかしイイ所は外さない。
もっともっと、と無意識に身体を寄せてくるアレンに微笑が零れた。
クロスの火照った身体には、触れるアレンの冷えた肌が心地良かった。

自分から熱を奪い、段々と熱くなっていく呪われた真白な少年に
態度で欲しがっている以上のものを、心で欲しがっている通りのものを


「だめじゃないだろう、アレン?」


「ひゃあ、……ッあ、ん!アぁ…も、ぉ!!」


諭すように耳元で囁きながら、一層強い刺激をくれてやれば
簡単にこの子供は快楽に堕ちて
クロスを欲しがるように、恨めしそうに目の前のシャツを掴む。


「欲しいか、なら自分で慣らしてみろよ」


甘やかすばかりでは面白くない。一つ新しい事をしてみよう。





















何を言われたのかわからないと言ったような表情で見詰めてきたアレンは
しかしクロスの言葉を理解しているようで、何かと葛藤しているようで。


「アレン」


いつもより優しく、父親のような声色で行為を促すよう呼び掛ける。

アレンはこの声が嫌いだった。
優しいようで逆らう事を決して許してくれない声。
そして何より、全てを見透かされたような、切ない気持ちになる声。
自分で、なんてそんな事できるわけがないのに。
早く、多少荒くてもイイから、圧倒的な熱で満たして欲しいのに。


「………ッ、」


意を決したように、ゆっくりと右手の人差し指を埋めたアレンに
クロスは満足したようにアレンの頭を撫でた。


「奥まで入れて動かせよ」


中々入り口付近から指を進めようとしないアレンの手に自分のそれを重ねて
一瞬怯んだ指をズブッと限界まで押し込んで動かすようにする。


「…ッや、ぁア!ん、ぅ……くっ、ン!」


控えめな嬌声を上げるアレンに、力を抜けと助言して
指を2本に増やして動きを激しくさせる。

入り口にはクロスの手があるため、拡張されてより深くまで自分の指が入ってしまう。
まるで自慰行為のような今の状況にアレンの羞恥が湧き上がった。
そんなアレンの気持ちを他所にクロスは指の動きを益々激しくさせていく。


「んアア!ぃ……ッ…あン、ひ…っく、ああッ!!」


自分の指なのにクロスにされているような感覚は、アレンを追い遣っていく。
もう少し、あと少しでも刺激を強くされればイッてしまいそうなほど
けれど昂った意識は、それでもクロスを求めて理性を手放す事を渋っていた。


「ああン、…ッは……ねッ、も…ししょ、ぉ!」


このもどかしさに耐え切れなくなったアレンは、空いている左手でクロスの首を捉えた。
嘲うクロスの顔をこちらに引き寄せて、乱暴に唇を重ねる。


「ん…ッ、ふ」


自ら舌を挿し込んで、クロスを絡め取って吸い付いて
行為の中で教えられたものを、膨張した意識の中で必死に実践する。
羞恥心を殺して、快楽に貪欲な自分の身体を満足させるために。


「……ほぅ、巧くなったな」


唇を離すと舌なめずりするクロスと目が合った。
途端、抑えていた羞恥心に苛まれて俯いてしまう。
けれど聞こえてきた布擦れの音に目線を上げれば
やっと望んでいたものが貰えるとわかってクロスの首に腕を回した。


「ちゃんと動けよ」


熱の篭った師の声に、アレンはただこくこくと頷く事しか出来なかった。






















「ア、ああッ……んやぁ!…ふッ、ン…ぁああ!!」


思う存分揺さ振られて、前立腺を幾度と無く掠め突かれて
アレンが跨っている体勢のせいで、限界を越えた最奥まで侵入される。
クロスのいつも以上に熱いモノに侵されて、理性なんてとうに投げ出したアレンは
言われた通り自らも腰を振って、必死になって快感を貪った。


「やぁああ…!ン…ッ、も…だめ、ししょぉ!!」


「……アレン、ッ」


お互い限界が近いらしく、激しくなるばかりの律動に浮上していく意識の中
耳に掛かる荒い息遣いにアレンは少なからず喜びを感じていた。
求めているのは自分だけではないと、実感できる事実が嬉しい。


「…ッ、ひぁ…ん!ぃ、やぁ…っ、ア…ッぁあンあああ!!!」


「ッ…、…!」


クプ、と最奥を押し潰されて、弾けたように白濁を吐き出す。
真白になった世界で広がった熱に息が詰まる。





















「…ん、」


呼吸が落ち着かないうちに重ねられた唇が開くことは無く
触れるだけのそれに微か感じた切なさを甘受して

ふと、気付く寒気。


「ひ、くしゅッ」


この寒さは多分、今の格好だけが原因では無い。
頭がボーッとして意識がはっきりしない事も、未だ冷めない身体の熱も


「……うつったな」


あーあ、といった感じのクロスの声と共に、額に当てられた手が心地良い。
これはもしかしてもしかしなくとも


「良かったな、馬鹿じゃなくて」


溌剌とした表情の赤髪の男は、裸のままのアレンと体勢を反転させて
皺の寄ったシーツで包み、冷え切ったマグカップをアレンに持たせた。


「し、しょう……あの、」


熱のため情報処理能力が低下した中、取り敢えず空腹を訴えようとする。
考えてみれば朝っぱらから情事に及んでいた二人は、まだ何も口にしていない。


「…ン、…ぁ、ふ…ッ!」


またもや唐突に重ねられた唇から、入ってきたねっとりとした感触に
離れて息を吐けば鼻腔を擽る柑橘系の香り。
マーマレードだと気付く事も無く呑み込んでしまう。
咽喉に残る甘ったるいベタつきに咳き込んで冷たいミルクを啜る。


「……甘、」


呟いた言葉はクロスの嘲笑う声に掻き消された。

























窓を見遣ればカーテン越しに、春の眩しい陽射が空高く上がっていた。














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最近まともに打ってなかったのでリハビリのつもりで頑張りますた…。
マリアン恋しい愛しい…!!!愛溢れる師アレ、のつもりです。

2005/8/28















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